さんきち なぞ図書館

何があっても大丈夫



『思いっきり私事なのですが、
8月いっぱいで会社を辞めることにしました。

会社を辞めますと伝える日、
仕事をしながらいろんなことを考えた。
そういう日は頭がいつも以上に
高速で回転していておもしろい。

いろいろなことを考えながらも、
何点かの考えの上へ、
何度も戻ってきてはどこかへいき、
どこかへ行ってはまた戻ってきた。

そのひとつに、いくつかの人の顔があった。

「ああいう顔の人になりたいのだからなあ。」
という「ああいう顔」がいくつか、
なんとなく代表例みたいに登場してきたのだ。

そして、それが「えいやっ」と
退職願を出すときの力になった。
上司に話をしながらも、
何度もいくつかの顔が頭をかすめた。

その中にある女の人の顔もあった。

その女の人とは、
半年くらい前に一回テレビで見たっきり。
やっこさんという呼び名だけで、本名は知らない。
なにをやっている人なのかも分からない。
(以前なぞ図書館で「山本寛斎への手紙」として書いたときの、
手紙を読んだ女性です。)

なんにも知らないながら、なんとなく、
あのまあるく赤いほっぺと、
きらきらした目と、バネのありそうな体つきが、
私の中に強く残っていた。


さて、退職願を出してから一ヵ月後、
私はインターネットで「オーダーシャツ」について調べていた。

人へのプレゼントを考えていて、
「オーダーシャツのお仕立券」なんてのを
プレゼントするってのはどうだろう?とふと思いついて。

「オーダーシャツ 老舗 職人」
などとワード検索していたとき、
たまたまひっかかったサイトを開いたら、
生地屋さんで生地を切ってもらっている写真の載ったページに
行き当たった。

ちょっと文章を読んでみると、
「スタイリストの仕事は、生地を探すことがつきまとう。
最近神田などの生地の問屋さんに行くと、
いつのまにかなくなっていてびっくりすることがある。
今日はちゃんとうまくいった。」
といったようなことが書いてあった。
そして最後に、
「こんなことを続けて40年。厭きません?ぜーんぜん!」とあった。

ん?40年? 
ってことはこの人いくつだ?
と思って、ページのトップに行ってみたら、
左上に女性の顔の写真。
タイトルは、「千駄ヶ谷スタイリスト日記」。

写真はサングラスをかけていたが、
でも、この短髪!このほっぺ!
名前を見ると、「高橋靖子」。
「これ、まさか、やっこさんじゃないか?」

他のページを読んでみてすぐわかった。
彼女はあの、やっこさんだった。

思いがけない拾い物に、ワクワクしながら
そのブログを読んでいったら、
その中で、彼女の読んだ本の感想が載っていた。

その本のタイトルを見て驚いた。
それは、それこそ一ヶ月ほど前に、
みずほ村に行く車の中で、
叔母が、「これ面白かったから、あげるわ。」
とくれた本だった。
5、6ページほど読んで、「今度読もうっと。」と、
本棚の上に置きっぱなしてあったものだ。




「何があっても大丈夫」
 櫻井よしこ著  新潮社 1500円

櫻井よしこさん。
日本テレビ「きょうの出来事」で、
キャスターを務めていた、髪の大きい美しい女の人。
といえば、ぴんとくるだろうか。
筑紫さんの女版みたいな感じかな。

「きょうの出来事」のキャスターを16年務めて、
もう今は、執筆活動に移っているそうだ。

1945年生まれの方なので、
今59歳?60歳くらいか。

この本は、その彼女が、自分のこれまでの人生を綴った本。

なによりもまず、やっこさんの感想を抜粋します。↓



私の読書の時間は、たいてい寝る前で、
新聞や雑誌といっしょにベッドのそばに置いてある本に、
「よーし、今夜はこれにしよう」と手をのばすところからはじまる。

でも、睡魔が順調にやってきて、
その前に眠りの階段を降りてゆくことも多い。

なかには、昼夜を問わず、
その本が自分の人生と同時進行して、
どうにも止まらなくなることがある。
そういう時、自分が呼吸している間は
その本にも呼吸していて欲しくなる。

往復の電車の中、撮影のあいだの ちょっとした待ち時間、
私は寸暇を惜しんでその本を抱きしめ、ページをめくる。
櫻井よしこ著「何があっても大丈夫」(新潮社)がそうだった。

こういうポジテイブな題名の有名人の本て、
ちょっとだけ疑い心が起きるでしょ?(起きないか、、、)
でも、この本は私の偏屈な疑念を吹き飛ばすどころか、
なんとも言いがたい正統派の重厚感を感じさせた。

櫻井さんの母親である以志さんの
「なにがあっても大丈夫ですよ」
という言葉にぴったりくっついた
明るさと苦しみの両方がずしんとつたわってくる内容なのだ。

具体的に説明は出来ないけれど、 小説とか、エッセイとか、
そんなカテゴリーは関係ない本当のドラマが描かれている。

たんなる癒し、たんなるポジティブさじゃない、とっても深い、
因縁まで含めた人生のポジティブさを描ききった桜井さんの、
家族や自分に対しての観察眼、正確な記憶力がすごい。
後半の、ぐんぐんと成長してゆく桜井さん自身の青春の日々に深く納得した。



本を読んでから、この感想を読むと、すごい。
まさにその言葉通りの本だと思う。

この本を読んでいる最中、
私が、何度も心の中でつぶやいたのは、
「うーん。うーん。面白いぞう。」という
へんなうめきみたいなもの。

著者の母親の以志さんの行動、言葉、考え方ひとつひとつに、
ドシーンと響くものがあって、
うーんとうめく。

人生は驚くほどのつらいことが起こるものらしい。
きっと、それは今も昔も。どんな人にも。
でもそのとき、どう受け止めて、どう動くか。

この本には、いずれジャーナリストになる娘の目で、
人生の危機に直面したときの以志さんの言葉、行動が、
正確に記されていた。

彼女はそんなとき、つべこべ言わないで動く。
つべこべ言っている暇などないのだ。
人生のそういったときには、どうやらおそろしいほどの
瞬発力が必要らしい。
彼女は一瞬で判断し、正しいと思う方に動く。
それはまるで、動物のようだ。

そして、さらに驚くのは、彼女の朗らかさ。
つらいことも、
「あの時は大変だったわねえ。」と
ほほほほほほと楽しそうに笑う。

うーん。まいったなあと思う。

嵐の中を、髪を風にびゅうびゅうふかれながらも、
微笑みながら前を見て、ぐんぐん進んでゆく女の人。
そんな印象だ。

そして、読みおえて、なにより深く感じたのは、
「私は甘い」ということ。
「なんだ、全然ひよっこだな」と思った。

でも、それは、否定ではなく、
希望を伴った実感として。

だって、「単に甘い」
ということがはっきり分かったのだから。

ここに、こういう考えで、こういう生き方をしてきた人がいる。
そのことが知れてよかった。
その朗らかで正しい空気は、しっかりその子供たちに根付いて、
広がってゆく。

この本を読んで、その人々の空気を
私も少し触れさせてもらった気分。
自分にとてもよい影響がありそうな。

本にしろ人にしろ、
出会うタイミングは偶然ではなくて、
出会うべくして出会うというか、
とにかく必要だからこそ出会うもんだと思っているのだが、
まさに、この本は、
このタイミングで出会うべき本だったのだと思う。

私が神様だったら、できるだけこのタイミングで
私に手渡したくなるような本だもの。

せっかくよい本をもらったのに、
本棚に置きっぱなしだったことを
気付かせてくれたやっこさんに感謝。

さんきち



<おまけ>

やっこさんの、最初にみつけたページはこちら

この本の感想が載っていたのはこちら
以前なぞ図書館で紹介した「不思議の国のアリス」の飛び出す絵本のことも
書いてあってびっくり。

さんきち Presents [ さんきち なぞ図書館]
All rights reserved by さんきち & SAKRA 2005