第15回
歯 の「ハナシ」【其の弐】
前号
を見逃している方もいらっしゃるかと思うので、少し。
「サカシタニホンコンは、いたく歯が悪い」
こうして原稿を書いている間も、前歯の神経を抜いたところが、うずく。
前回は800ドルもの治療費を払えなかった、
可哀想な貧乏留学生のお話でしたが、
(正確にいうと、分不相応な歯医者にのこのこと姿をあらわした身の程知らずが、
異国の地でバックれる話)
で、サカシタニホンコンは、北京にて、
虫歯の詰め物の蓋を開けっ放しにしたまま、夏休みに突入したのだった。
夏休みは2ヶ月半。
最初は順調に歯のことなんか忘れて旅ができた。
悲劇が襲ったのは、途中、中国人の友人宅にホームステイした時だった。
(それが、以前お話したかと思うが、「3週間風呂に入れなかった」場所である)
ある夜、自分の汗の匂いで目が覚めるかと思いきや、
「ズッキーン!」という痛みで目が覚めた。
分かるかい?歯が痛くて目が覚めるんだよ。
ベッドの上を転がり回って、うなってましたが、とうとう耐えきれず、
おばあちゃんか、友人を呼んだ。呼ばれたほうも困るだろうが、
そのまま野放しにされるほうが、もっと困る。
さんざ氷だの、なんだのもらい、慰められた後。
「朝になっても痛かったら、歯医者にいこう」と言われた。
これで、ちょっと安心。
ただ、油断はできない、とどめはここからなのだ。
そして、皆が部屋に戻った直後にニホンコンの出た行動は
「辞書をめくる」ことだった。
明日の朝イチに「やっぱりどうしても歯が痛くて歯医者に行きたい」と言うために。
伝えるのは簡単だったかもしれない。「歯医者に行きたい」と。
ただ、確か留学して半年も経っていなかったであろう、その頃に、
どんだけ自分が「緊急事態」であるか、
ということを分からせるには、まだ語学が足りなかった。
明日の予定を変更させてまで、朝イチに歯医者に行かせるためには、
最初の「やっぱり」と、「どうしても」という
この強い語気が言えなくては駄目なのだ。
人は崖っぷちに立たされれば、なんとかするもんだ。
この時に学んだと思う。
ちゃんと中国語の辞書からは、それっぽい単語を拾い、
あたかも自分の口から出てきたかのような、滑らかな表現方法を練習し、明日の朝に備える。
で、翌朝、起きたら開口一番伝えました。
その緊急事態さを。
最初は面倒くさがって、「あと1週間待ったら、
私が病院に行くから連れていってあげる」だったり、
「昨日は大丈夫かもって言ったじゃない」と、逆に怒られたりしたが。
結果。
サカシタニホンコンの粘り勝ち。
その日の午前中に歯医者に連れてってもらえることになった。
ただ、「この痛みから逃れるために、人々を歯医者に行かせる」ことに
全霊全身を注いでいたため、肝心なことを忘れていた。
ここは、中国、しかも中国で一番貧しい省といわれる
「貴陽省」という田舎の、そのまた田舎の村。
どこにそんな歯医者があるのか。
しかも、「歯医者」なんてもんは存在するのか?
今回の選択肢は
1、 針は変えない、どんな衛生状態の歯医者かは「不明」
2、 恐いのでやっぱ辞めると言い、痛い思いをし続ける
貧乏くじとは、こういうことを言うんだろう。
この「ハナシ」は、また今度。
「ホームステイした中国人友達と、その彼」
7月15日 サカシタニホンコン
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