さんきち なぞ図書館

サザエさん うちあけ話


こ私は普段、あまり怖い夢をみません。
そう言うと羨ましがられるのですが、
幸せなことに小さいころからそうでした。

その理由はいろいろあると思うのですが、
かなり大きな要因として浮かぶのが、
『サザエさん』の存在です。

実は、私は、
小学生のころから社会人になって実家を出るまで、
就寝前に読む本の不動の第一位が、
『サザエさん』だったのです。

叔父がある日車でやってきて、
「これ、あげるよ。」と大量の『サザエさん』をうちに
置いていってくれたのがはじまりでした。

それ以後、私は、本が擦り切れるまでどころか、
擦り切れてページがばらばらになり、
紙袋に保存・・・という状態になっても、
『就寝前は必ずサザエさんを読む』
という人生を送ってきました。

大学でどんなに深刻な小説について勉強していても、
寝る前はサザエさん。
親と大喧嘩をして悪態をついていても、
寝る前はサザエさん。
なわけです。

これが、潜在意識に影響しないわけがありません。

本に載っている4コマ漫画は、
いつのまにかすべて暗記しており、
どんな漫画も、
1コマ目をみれば、オチが説明ができるという
謎のサザエさんおたくになっていました。

今でも、アニメのサザエさんを見ると、
話のはじめで、どの4コマをもとにした話なのかが
すぐわかってしまいます。
そして、「ああ、あれ、漫画では石焼イモだったけど、
夏だからアイスクリームにしたんだあ。」
などとひそかに思っているのです。
相当あやしいですね。

さて、サザエさんの最大の魅力といえば、
英語版も出ているように、
外国人だろうとお年寄りだろうと子供だろうと、
万人が読んでつい吹きだしてしまう漫画の面白さ、
ユーモアとしてのおもしろさがあると思うのですが、

もうひとつの魅力は、その世界観にあると思うのです。

そこに住んでいる住人が、どうも憎めない。
愛嬌があって、ほほえましい。
飾り気がなくて、庶民的で、人間的。
そして、漫画全体に漂う、率直で明るい雰囲気。

こういう世界っていいなあ。
こういう世界に住みたいなあと思わずにはいられません。

そして、その世界観は、
これを作り出している作者、長谷川町子さん自身の
世界観にほかならない。

今回ご紹介する本は、
その長谷川町子さんのすべてがわかる(?)
『サザエさん うちあけ話』です。 
 -- 長谷川町子著 朝日新聞社 540円 --

(前半は、「うちあけ話」で、後半は、「似たもの一家」という、
サザエさんの家のお隣のいささかさん一家の漫画が収録されてます。)




自らの生い立ちからはじまって、
サザエさん出版までのどたばた顛末、
どろぼうにあったり、
アメリカ人が訪ねてきたりと、
戦中戦後に起こった様々なできごとが、
漫画風に綴られた一冊です。

なにより印象深いのは、
長谷川町子さんの母 (あだ名はヒットラー)
の強烈な個性。
夫が病気でなくなってから、女手ひとつで
3人の娘を、育てた彼女のすさまじさ。
娘たちの振り回され具合、とほほという困り顔に、
つい笑ってしまいます。

一番笑えたのは、このエピソード。
町子さんのお姉さんの旦那さんは、
結婚してすぐに戦地に赴いたのですが、
その旦那さんからの手紙の返事を
筆不精で文章べたなお姉さんが、
書いては破り書いては破りを繰り返し、一日延ばし。
なかなか返事を出さないので
業を煮やした母(ヒットラー)が、
代送を決行したというエピソード。
戦地の旦那さんと、母との間に
ラブレターがせわしく往復し、旦那さんは、
その手紙の束を胸にビルマに発っていったというもの。
ひどい・・・。

サザエさん一家より全然面白いんじゃないの?
というような家族の、ノンフィクションの一大絵巻です。

わははははと単純に笑いながらも、
戦中戦後を明るく生きのびてきたたくましさに
うーん。すごい。とうなったり、
庶民の目から見た、この時代というものが、
浮き彫りになっていて、とても勉強になったりしつつ、
やっぱり基本は、わはははと楽しめます。

おすすめ!










<お知らせ>

一身上の都合により、
なぞ図書館を今回で休館とさせていただきます。
長い間拙い文章を読んでいただきまして、
誠に誠に!ありがとうございました。
それでは!

なぞ図書館司書 さんきち

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