母、祐子はその日の夕ご飯が好物だと、歌いだす人である。
例えば、私が今日の夕飯は何か?と聞くと
「♪きりたんぽ鍋ルルルン♪」と、低レベルなメロディに乗せてきりたんぽ鍋をアピールしてくる。
低レベルなのだが、何故か私の頭の中にしつこく残り、
しばらく私はきりたんぽ鍋の呪縛から逃れられなくなるのである。
そんな母の元を離れ、早6年。
そんなこともすっかり忘れていた。
先日、私達夫婦の好物、白ワインのモンテス・アルファを購入し意気揚々と帰っていた時のことである。
夫が突然歌いだした。
「♪2004年のモンテスはぁ〜 おいしいぞっ おいしいぞっ おいしぃぞぉ〜♪」
えーーーーっ!!!!
過去の苦い思い出が走馬灯のように脳裏をよぎった。
好物を目の前にすると、普通は歌いだすもの??それが常識??常識ってなに??
そしてしばらく「2004年のモンテス」が頭の中で永遠とリピートし、私を苦しめたのである。
では本題に入ろう。
今回お薦めするのは、芸人ではなく本である。
思わず吹き出してしまうような、読み終えた後心が晴々しているような、そんな小説である。
「チルドレン」伊坂幸太郎
この小説は、ある一人の男を回想・客観・聴覚・主観などの様々な方向から語った物語である。
その主役となる男を一言で言うなら 「究極のプラス思考」 である。
こんな場面がある。
主人公を含め数人が銀行強盗の人質になり、緊迫した状況が続いている。
人質達は皆、精神的に疲れ果てていた。
そんな時、突然主人公がビートルズを歌いだす。
皆初めは驚いたものの、その歌声の美しさに犯人でさえ聴き入り、そしていつしか場の空気は和んでいた。
現実にはそんなにうまくいかないかもしれない。
しかしこの主人公を見ているとそんなのも悪くないかなと思えるのだ。
と言うより、マイナスをプラスに変えるめちゃくちゃなパワーを彼は持っている。
なんだか私もそのめちゃくちゃなパワーを少しだけもらえた気がする。
私も銀行強盗に遭ったら「2004年のモンテス」を歌い、場の空気を和ませたいと思う。
読み終えた後、ふっと力が抜けてしまうような、「やられた!」という心地よい裏切りを味わえる作品である。
千田なつみ Presents [ 笑い道]
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