さんきち なぞ図書館

トムは真夜中の庭で


お昨夜関東地方は、記録的な雨量だったそうで、
土砂降りが4時間おとろえずに続き、
「これはちょっとやばいんじゃないかなあ」と
ドキドキしていました。

なにせ、うちは三面が窓なので、
右から左から雨が吹きつけ、
遭難した船の中にいるみたいなのです。
大迫力。

雷もすごくて、
光ってから音がするまでの間隔が
だんだん狭まってきたなあと思った瞬間、
ピカッ!と同時にドンッ!ときて、震え上がりました。
背筋が凍るような大音量。
どこかに落ちたんじゃないかな。

でも、その雷のすさまじさで、
ある本を思い出しました。


夜、ゴウゴウと大木をゆすって吹き荒れる嵐の中、
真っ暗な空にイナズマが走る。
イナズマは一本の木に落ち、
その木はバリバリと裂けて燃え上がり、
ゆっくりと前に倒れる。
その一部始終を、少年が見ている。


そんなシーンがある本。

トムという少年の、
ある年の夏休みに起こった、
不思議な出来事のお話。


『トムは真夜中の庭で』
フィリパ・ピアス著 高杉一郎訳 岩波書店 1995円



この本は叔父に買ってもらったのですが、
すごく面白いらしいとわかってはいても、
表紙の絵が怖くて、
なかなか手がつけられなかったのを思い出します。

ずっと気になりながら、
何年も本棚に読まないまま置かれていました。

でも、一度読んでからは、
繰り返し繰り返し何度も読んだ。

とにかく面白い。

計算された緻密な構成。
詩的な情感。

子供のころ目に焼きついたような、
印象的な場面場面が、
まるでページをめくるように展開する。

名作と呼ぶにふさわしい、100年残る本です。



トムはイギリスに住む男の子。

夏休みになったら弟と、
庭であれもしようこれもしようと遊びの計画を練っていたのに、
夏休みが始まった途端、その弟が運悪く麻疹にかかってしまう。

まだ麻疹をやっていないトムは、感染しないよう、弟が完全に治るまで、
親戚のおじさんおばさんのうちに預けられることになる。

プリプリしながら、着いた親戚の家は、
もともとは大きなお屋敷だったであろう建物を、
今はアパートのように分けて何世帯かに貸しているうちの一世帯。

屋敷の入り口の扉を入ると、そこには大きな広間があり、
そこからそれぞれの部屋へ通じているのだが、
その広間には大きな備え付けの古い振り子時計があった。

親戚の家には、遊び相手の子供もいなければ、
町中なので庭もない。
トムの死にそうに退屈な日々がはじまった。
せっかくの夏休みだというのに。

昼間外で遊ばないためか、夜トムは眠れない。
そんなある真夜中、
一階の広間にある振り子時計がボーンボーンと鳴り出した。

その音を、トムはなんとなしに数えだす。
1、2、3、4・・・。
しかし、12回で止まるはずのその時計は、
13回打ってようやく止まった。

数え間違いだろうか。
でも、トムはなにかしら周りの空気が変わったような気がして、
一階へ降りてゆく。

広間の様子が少し違う。
裏の扉を開けて驚いた。

昼間、ガラクタの転がった狭い駐車場だったその場所には、
遠くに木立が立ち並び、
農園や小屋もある、広い庭園が広がっていた。


さて、「トムは真夜中の庭で」、
何を体験するのか。
それは読んでみてのお楽しみ。

でも、ひとつだけ。

トムはそこで、女の子と出会います。

その真夜中の庭の中では、
ハティというその女の子だけが、
トムの姿が見えるのです。



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