落語の噺の一つに厩家事という夫婦の噺がある。
呑んで遊んでばかりいる亭主をもつ妻が、
亭主の大切にしている皿をわざと割り、亭主の心を試すという噺である。
私はこの話が好きである。
夫婦って、そういうものなんだよなぁと思う。
一緒にいるのが当たり前になって、たまに気持ちを確かめてみたくなる。
いじらしいではないか。

実を言うと、私は落語をちゃんと見たことがない。
それなのに何故こんな知ったかぶりをしているかというと
最近「寄席芸人伝」という漫画にはまっているからである。
この漫画は芸にかける人間達の粋で乙な物語である。
「タイガー&ドラゴン」で
「落語は芸術じゃない、庶民の娯楽なのよ!」という台詞があった。
寄席芸人伝を読むと、それが良く分かる。
人を泣かせたり、笑わせたり、怖がらせたり、
娯楽の少なかった時代から、落語は庶民の楽しみであり、決し
て敷居の高いものではなかった。
そしてそれは間違いなく商売だったのである。
分かる人に分かればいいという一人よがりなものではなく、多く
の人を楽しませようと芸人達は必死だった。
そんな芸人達とそれを支える人たちの姿を、とても暖かく描いた漫画だった。

江戸のある町に若い夫婦が住んでおりました。
ある時から妻が漫画にはまり、四六時中読んでいるものだから、
家の事を全くしなくなる。
その間、夫は妻の代わりにせっせと家事をし、
たまに妻に話しかければ、漫画に集中するあまり聞いていない様子。
夫は妻が自分の事を大切に思ってくれていないのではないか、とだんだん心配になり
一策を講じました。

夫「なぁ、おまえ 少し体の調子が悪いみたいなんだよ。頭が
  ガンガン痛いし、熱もあるみたいだ。」

妻「大丈夫かい?おまえさん、もう家の事は私にまかせて、
  どうか横になって休んでておくれ。」

夫「嬉しいじゃないか、漫画よりも私のことを思ってくれるのかい。」

妻「当たり前じゃないか、おまえさんがいなかったら、
  明日から集中して漫画が読めなくなる。」

お後が宜しいようで。

千田なつみ Presents [ 笑い道]
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