4月30日(土) 晴れ
今日は移動日。ゆっくり朝食を食べて、空港へ向かう。
昨夜から夫は給油の心配ばかりしていて、
朝はホテルのベランダからガソリンスタンドの様子をずっと見ていたが、
拍子抜けするくらい簡単にできた。赤い車を返す。
早く着きすぎ、空港でさんざん待つ。
スーツケースはまだ余裕があり重くないのに重量オーバーと言われてしまう。
追加料金がかかるので、その場で荷物を減らして機内に持ち込んだ。
アロハ航空でハワイ島コナ空港へ。小さめの飛行機の座席は自由席で早いもん勝ち。
1時間足らずのフライトで黒い溶岩の大地の中にある小さな空港に到着した。
空港は茅葺小屋の集落。壁はなく屋根と柱だけの建物で開放感いっぱい。
カウンターには恰幅のいい女性たちがムームーを着て座っている。
次に借りた車は恥ずかしいくらい真っ青。
とりあえず、宿を目指し南へ向かう。
空港から南へ向かう道路はこの1本しかない。
途中、どこでもいいからてきとうにお昼にしようと言っていたのに、
昼時を過ぎてどこも閉まっている。
なにも食べずのうちに宿あたりに着いてしまった。
ふたりともおなかがへりすぎて機嫌が悪い。仕方なくスーパーに寄って、
クッキーとビールを買った。人があまりいなくて、
広いのに暗くてさびれたスーパーだった。
ハワイ島で滞在したのはハワイ島の西海岸の南部、
キャプテンクックのコーヒーファームにあるB&B。
キャプテンクックはハワイを発見したキャプテンクックが不慮の死を遂げた海が
ある小さな町。そこへは大変な道のり。まずは、ものすごい坂をよじ登る。
丘の頂上からコーヒー畑の細い道を進む。
それから藪の中のぐねぐねのほっそい道を行くと、途中で鶏や猫が横切る。
対向車が来ようものならどうすればいいのやら。竹やぶにぶちあたったらもうすぐ。
ジャングル探検のドライブの末、やっと到着した。
私たちの車の音がしたのか、黒い大きな犬とご主人のティムさんが出てきた。
早速、中に案内される。ご主人は、私たちは今まで来た数組の日本人のゲスト中で、
いちばん若いと言っていた。私たちの部屋は1軒屋の1階部分にあって、
目の前に広い芝生、その向こうにコーヒー畑がある。
そのまたずっとずっと向こうには、大きな湖のように静かな海が遠くに見える。空と海の境目は分からない。
今日は夕飯までどこへ行くもないので、しばらくここでお茶を入れたり、
ビールを飲んだりしてのんびりした。ここはほんとに静かで、
聞こえるのは鳥の声と蜂がブンブン飛ぶ音くらい。
丘の上にあるので、涼しくて、寒いくらい。
日暮れ前に、夕飯を食べに出た。
すぐ近くにマナゴ・ホテルという歴史あるホテルがある。
そこの食堂は和食とハワイアンフードがごちゃ混ぜでおもしろいし、
味もいいとB&Bのご主人が教えてくれた。
外はまだ明るいのに、すでにテーブルは地元の人でいっぱい。
観光客もいる。建物もテーブルも椅子もかなりの年季がはいっていて郷愁が漂う。
夫は看板料理のポークチョップとコーラ、私はマヒマヒという
ハワイの魚のソテーとビールを注文した。
おもしろいのは、注文とは別に皿に山盛りのマカロニサラダと簡単なおかず数品、
どんぶりにてんこ盛りの白ごはんにしゃもじをぶっ刺したのがついてくる。
ごはんはどんぶりから各自の小さいお茶碗によそって食べる。
フォークじゃなくてお箸。お箸袋には、使い方の説明図が描いてあった。
テーブルには醤油。おかずはボリューム満点。
夫のポークチョップはほんとにでかかった。想像と全然違って、薄味でおいしい。
お客さんの回転は速いが、入ってくる人入ってくる人みんな知り合いのようで、
あちこちで立ち話が始まる。大人も子供もじいちゃんもばあちゃんもいる。
大家族でワイワイ来ているテーブル、ひとりで黙々と食べるおっちゃん、
年寄りのグループといろいろ。忙しい店員さんたちも感じがいいし、
ほんとにここは地元に愛され続けている食堂だなあと思った。
みんな食べ残しは、ちゃんと包んでもらってていねいに持って帰っていた。
おなかがいっぱいになって、夕焼けの中ドライブする。
帰り道は真っ暗になってしまい、街灯がほとんどない夜道を帰るのは恐ろしい。
対向車はみんなライトをハイビームにして走っていて、
こっちはまぶしくてたまらない。目を開いていられないほどまぶしくて危ない。
宿に着いて、空を見上げると満天の星空だった。
5月1日(日) 晴れ、夕方曇り
日の光で目が覚める。宿をここに決めた楽しみのひとつは朝ごはん。
自家製の100%コナ・コーヒーがいただける。
8時ちょうどにダイニングに上がった。ラッキーなことに、
もう一組いたゲストは朝早くにチェックアウトしていて、私たちふたりだけ。
コーヒーはご主人が焙煎したとのこと。
コーヒーの味はあまり分からないが、ほろ苦く、香ばしくて野性っぽい味がした。
パン、ジュース、コーヒー、チーズとハーブが入ったオムレツ、
きれいにお皿に並べられたバナナ、パパイヤ、マンゴー。
青い海と青い空を見ながらゆっくり食べた。夫は相変わらず朝は小食。
ここに来てもコーヒーよりもジュースの方がいい様子。
朝食後、コーヒーの木をじっくり見てみる。初めて見た。
背の低いこじんまりした木、緑の固いツヤツヤの葉っぱ、
よく見ると緑色の実と赤い実が混ざってなっていて、
控えめに小さな白い花が咲いている。コナは火山の土地、風、温度、
午後に降る雨、全てがコーヒーを育てるのに最適らしい。
ハワイ島では、朝は晴れていても、昼からは必ずと言っていいほど曇る。
それから私はもうひと眠り。夫が外で本を読んでいると、
黒犬のモーリッツとトラネコのタイガーが寄ってきたらしい。
タイガーは調子が悪いのかオエオエしながら歩き、ゲロを吐いたらしい。
モーリッツはケガをしていて、肉球が一部えぐれていて痛そうだったらしい。
10時頃出発。今日はキラウエア火山に行く。
ロングドライブ。コーヒー農園が続くコーヒーベルトを抜けると、
海と断崖絶壁が遠くに見える。それからひたすら続く一本道を上ったり下ったり。
溶岩に囲まれた道を行き、途中に小さな町があったと思えば、
そこからはくねくね道。何度もバイカーとすれ違った。
ハワイ島の道路脇には、常に何かしらの鮮やかな花が咲いていて、
それを見ているだけで飽きなかった。車は少ないものの、
時に猛スピードで反対車線に出て追い越しする車もいて、ヒヤヒヤした。
ティムさんの言ってた通り、ちょうど1時間半でボルケーノ国立公園に到着。
ガソリンを足して、お昼ごはんにする。
レストランに入り夫はロコモコとコーラ、私はサイミンというハワイのヌードルと
レモネードにした。ロコモコはほとんどつなぎが入っていない
肉ばかりの固めのしっかりしたハンバーグとグレービーソース、
目玉焼きがのったハワイのごはん。ここのは青ネギがのっていて、
それだけで和風な感じがした。
サイミンはハワイにしてはめずらしいかなりあっさりした麺。
胡椒のきいた洋風の沖縄ソバという感じだった。
腹ごしらえを済ませ、公園のゲートでふたりで記念撮影をした。そして、キラウエアの火口を目指す。国立公園の中の道路には所々に鳥の絵が描いてある標識がある。これはネネという絶滅寸前の鳥で、車による事故で数が大幅に減っているらしい。奈良にある鹿に注意の標識を思い出した。
火口に近づくにつれ、車も増えて観光バスもだんだん増えてきた。
ここは全部溶岩の大地。その中にもたくましい緑があった。
溶岩にはツルツルしたのとゴツゴツしたのがあり、これは成分の違いらしい。
ツルツルの方が溶岩らしい。
キラウエアの火口は壮大すぎて、全く距離感がつかめなかった。
深さ400mとのことだけど、そんなにあるようには見えない。
きっとまわりに大きさを比べるものが何もなさすぎだから。
おっきい隕石が落ちた後みたいだった。
火口の周りをドライブしてから、今度は活きた赤い溶岩を見るために、
海に向かって行く。途中、夫は偶然ネネを見たが、私は見逃した。
道はキラウエアの山の上からくねくねゆっくり下りながら海へ続く。
この道はほんとに絶景で、航空写真を見ているようだった。
人の生活が全く感じられないところに、
こうやって車が走る道があるのがとても変な感じだった。
遥か遠くに見える断崖絶壁からは、溶岩が海に落ちて雲のように水蒸気が
モクモク上がっている。そこを目指し、気が遠くなるほど長く見える道を
ひたすら走った。
終点には駐車場がなくて、道端に車がずらりと置いてある。
車を降りて、溶岩の上を歩くためにサンダルから靴に履き替えた。
ここからが遠い。すれ違う帰り道の人はみんなぐったりしていた。
夫は、Tシャツを脱いで裸になる。かなり歩いてやっと溶岩にたどり着いた。
溶岩の入口に、「十分な水は持っていますか?」と注意の看板がある。
私たちはふたりでちっちゃいペットボトル1本しか持ってなかったが、
まわりに買うところも何もないのに今さらそんなこといわれてもどうしようもない。
ぐねぐねボコボコの溶岩の上を炎天下の中歩きはじめた。
夫は嬉しくてつい走る。捻挫しそうで怖い。
私たちは活きた赤いドロドロの溶岩を見にここまでやって来た。
でも、足の下の溶岩はいくら歩いても冷たいままだし、
遠くに見えている溶岩が海に落ちて水蒸気が吹き上がる崖も、全く近づかない。
1時間ほど歩いても、何も変わらず、体力と時間だけがなくなっていくので、
夫の判断で引き返した。子供も年寄りも息を切らしながらどんどん歩いていくが、
どこに向かっているのか私には全く理解できなかった。
車に戻る途中、よく見ると入口に
「活きた溶岩を見るには、慣れたハイカーでも往復4時間はかかります!!
安易な気持ちで行くと危険!!ひとり1?Pの水を持っていくこと!!」
と英語で書いてあった。
私は昨年知人が「昨年アツアツの溶岩の上を歩いた」というのを聞いていたので、
自分たちが諦めるのがとても不甲斐なくて、
いつまでも諦めきれずブチブチ言った。夫は呆れ顔で聞いていた。
さんざん文句を言った後、時間も体力もないので、渋々帰ることにした。
(火山は生きてるので、溶岩の状況はめまぐるしく変わり、
私たちが行ったときはたまたま近くに生きた溶岩がなかったらしい。)
帰り、峠のいちばん高いところで車を止めて、岩によじ登って溶岩の地と海を見た。
上から見ると、私たちが歩こうとしていた活きた溶岩への道のりは
恐ろしく長かった。夫は、「溶岩の上を歩けたんやから俺はそれで満足や」と。
私はほんとに欲が深すぎていやになってしまったが、
しばらく風にあたって大きな景色を見ていると、
そんなことどうでもいいやと思えた。
私は知らぬ間に車で寝てしまって、気がつくと国立公園を出ていた。
ブラックサンドビーチという名前通りの黒い砂浜のビーチに寄る。
ここはウミガメが日光浴に来るので有名らしいが、夕方なのでいなかった。
日曜日で、地元の人がBBQをしたり、歌を歌ったりでにぎやか。
結婚式をしている人もいた。
帰りの一本道、雲の間にほんの一瞬顔を出した真っ赤な
うめぼしみたいな夕日を見つけて車を止める。
すっかり暗くなったくねくね道を、車のライトの光だけを手がかりに車を走らせる。もううんざりと思った頃、いつの間にかホテル近くに来ていた。
今日はいっぱい歩いて、汗もかいたので「ビールとお肉が食べたい」となって、
BBQレストランを探して、同じ道を行ったり来たり。
見つからないのであきらめて、ホテルにいちばん近いメキシコ料理屋に入る。
星が満開だったので、外の席にした。メキシコ料理のことはよく分からず、
なんとなく聞いたことある名前のメニューを注文したら、
ウエイトレスのおねえちゃんは「グッドチョイス!」と親指を立てて言った。
そのくせ同じ食材で同じ味付けがカタチを変えて3つ出てきた。
はじめはおいしくて、ガツガツ食べていたものの、すぐ飽きる。
しかも大量で、半分くらい残してしまう。
申し訳ないので、おべんと箱に入れて持って帰った。宿に帰って、
空を見上げると、ここはもっと暗いのでもっと星がもっと見えた。
ほんとに降ってきそうなほどで、ずっと見ていたらニセモノのように見えてきた。
5月2日(月) くもり時々はれ
今日の朝食は奥さんシンディーお手製のクレープだった。
クレープといってもフワフワの薄焼きパンのようで、
オーブンで香ばしく焼いてある。アツアツのそれに粉砂糖をたっぷりかけて、
バナナやキュウイやマンゴーをミックスしたアツアツトロトロソースを
のっけて食べる。大皿いっぱいだったけど、軽いのであっという間に食べきった。
ほかにはスムージー、コナ・コーヒー、フルーツいろいろ。
本日のコーヒーは昨日よりさらに深煎り。煎り具合でかなり味が変わる。
今日もダイニングは私たちだけ。今はそんなに忙しい時期でないらしいが、
7月〜9月はアメリカ本土からのゲストでいっぱいで、てんてこ舞いらしい。
ここの夫妻はハワイ島の空気と気候がとても気に入り、
このコーヒー農園のドイツ人オーナーに雇われて、
アメリカ本土から移り住んだとのこと。ハワイでの生活は快適ですばらしい反面、
物価が高いのでお金がかかって大変らしい。
午前中は何もせず、のんびり過ごす。本を読んだり、寝たり。
午後からはハワイ島でいちばん高いマウナケアという山の上で、
星を観測するツアーに参加する。それまでに、
おおみやげ用のコナ・コーヒーを買って、軽くお昼を食べておくことにした。
コーヒーショップに行く途中、道を間違えてしまい切りかえそうと
車をバックしたところ何かにぶつけた。バキッと大きな音がしたので、
恐る恐る車を降りると、“STOP”の道路標識が斜め45°に傾いている。
ふたりともびっくりして頭が真っ白になり、立ち尽くす。
すぐそこの家から真っ黒に日焼けした怖そうなおじいさんが顔を出して
“オーマイゴット”と言っている。向かいの家の白人の男も表に出てきてしまった。
どうしていいものかも分からず、
夫はとりあえず傾いた標識を力ずくで元に戻そうとしたが、完全に折ってしまった。
白人の男が家に入っていったので、警察を呼びに行ったにちがいないと
ドキドキしていたら、工具片手に戻ってきた。自力で直してみようということ。
おじいちゃんと白人の男と夫とバラバラの男3人で金づち片手に復旧作業。
私は罰当たりにも、この様子を写真に収めたくてうずうずしたが、
我慢して心配そうなふりをして様子を見ていた。
標識は短くなってしまったものの、なんとかまっすぐ立つようになった。
車はバンパーがボコっとあがってしまっていたが、
おじいちゃんがドンと押すとペコっと元どおりになった。
ライトが少し割れてしまったけど、ぱっと見分からない。
騒ぎがひと段落ついて、ぐったりする。ふたりに何度も頭を下げ、お礼を言った。
おじいちゃんは日系人で、片言の日本語が話せた。
話を聞いていると、どうやら、ここにぶつかった観光客の車は4台目。
慣れているらしい。それを聞いてホッとする。
そもそも標識の立っている場所がおかしい。
それにしても親切な人たちだった。ハワイの人は気楽でいい。
私だったら警察に通報していたかもしれない。
それから夫はかなり落ち込んでいた。
私はお土産話ができたからよかったと肩を叩いて元気づける。
やっとコーヒーを買って、お昼にした。
夫はおひさまの形にカットしたパイナップルとたっぷりのケチャップがのった
アロハバーガー、私はパサパサのBLTサンド。首筋たてて、大口を開いて食べた。
2時ちょうどにツアーの集合場所のビーチ沿いの大きいホテルに行く。
ビーチ沿いに来たのははじめてで、にぎやかでお店がたくさんあった。
ツアーは女8人、男2人、ガイド兼ドライバーのおにいさん1人。
ガイドは2ヶ月前にアメリカ本土の軍隊から戻ったばかりで、
地元コナ出身のショーンさん。7年間大阪に住んでいたらしく、時々関西弁になる。
とにかくこのおにいちゃんは感心するほどよく喋った。
“アッロ〜ハ〜”の大声から始まり、
ノリノリDJの口調でどうでもいい話と興味深い話を延々する。
果てはダジャレ、雄たけびをあげる。はじめはこの男うんざりと思ったが、
だんだんおもしろくなった。寝てなんかいられない。
ハワイ島の歴史や神話、人や動物や土地のこと、生活のこと、
火山のことなど興味深い話をたくさん聞かせてくれた。
ハワイの人々は火山に火の女神ペレが住むと信じている。
嫉妬深く、男好き、怒ると火山を爆発させる。神様なのに感情的。
人間の女性と変わらない。
旧ハイウェイを行き、どこまで行ってもどこまで行っても続くパーカー牧場を
行きながら牛を見たり羊を見たり。
野生の山羊、なかなか遭えない野生のフクロウもいた。
だんだん標高が高くなって、真っ白い霧の中、車はジェットコースターのように
コンディションの悪いサドルロードを暴走し、溶岩道を行く。
やっと霧を抜け、真っ青な空の下、標高2800mオニヅカセンターという
場所で休憩と早い夕飯。このあたりは日差しは強いがかなり涼しい。
フリースとタイツを仕込む。夫はあれだけ言ったにもかかわらず、
ウインドブレーカー1枚しか持ってこなかった。夕飯はオニギリと天ぷらうどん。
久々の和食にみんな喜んでいた。小学校の登山遠足みたいにごはんを食べる。
ここからは道が悪く、車は砂利道をゆっくりゆっくり登っていく。
途中、車を止めてめずらしい高山植物を見る。
酸素がふつうの40%くらいしかないので、高山病防止のためにも
決して走ったりしないようにと注意を受けた。私は夫に走るなと釘をさしておく。
針金のような銀色の葉っぱのシルバーソードという植物はで何十年にいちどしか
花が咲かない。枯れているようにも見えたが、黄色い花が咲いていた。
さらに車は登っていく。景色は飛行機の上と同じような雲の上。
みんな窓にはり付いて外をみては「ワァー」と自然に声が出る。
この山の名前“マウナケア”はハワイ語で白い山ということ。
ハワイでも富士山よりも高いこの山には雪が積もって時には真っ白になる。
日かげの山肌にはまだ雪が残っている。
雲のずっと上にある山頂は365日中、320日は晴れているらしく、
もちろん今日も雲ひとつない青空だった。
山頂付近は各国の天文台がいくつかあり、日本のすばる天文台もあった。
ちょうど夕暮れになって4000mを越す山頂付近で車を止めて、
全員上着を借りて、太陽が沈むのを寒さに耐えながら待つ。
気温は0℃くらい。風が強いので、余計に寒く感じた。
太陽はどんどん下がっていき、それはそれは今まで見たことのない、
雲の上からの幻想的な夕焼けになった。
ピンク、青、水色、オレンジ、グレー、ベージュ、白、色んな色が混じっていた。
あっという間に太陽は沈んでいった。
次は星空観測。私はてっきり山頂かすばる天文台で星を見ることができると
思い込んでいたが、別の場所らしい。車に乗って少し下る。
真っ暗の中、ガイドのペンライトをたよりに、北斗七星にはじまり、
北極星、大熊座、小熊座、獅子座、オリオン座、冠座、牛飼い座、大犬座、
子犬座、蠍座、双子座、冬の大三角形、南十字星、偽の南十字星、
太陽の黄道・・・・色んな星座が、所狭しとあった。昔のハワイの人は、
星を目印に方角を見つけて航海をしてはるか遠くの島から
カヌーで海を渡ってきたらしい。
天体望遠鏡で、星雲を見たり、木星や土星の輪も見た。
人工衛星が動いているのも見える。時々流れ星が流れて、みんなが声をあげる。
夫は流れ星をなかなか見れずに「どこ?どこ?」とうるさい。
星空教室の最後は、ガイドさんによる宇宙の話。
「この莫大な宇宙のことを、昔からたくさんの学者が研究して、
今になって少しずつ色んなことが分かってきている。
私たち人間は宇宙で起きた偶然のたまもので、何かがほんの少しでも違っていたら、
ここにはいなかった。みんなこれからそれぞれの場所での
それぞれの生活に戻っていくけれど、ここでこうして星を見て、
こんなおじさんからこんな話を聞いたのを忘れないで欲しい」と。
私はハワイに来てから、オアフ島でイルカに遭えなかったことや、
熱いマグマの上を歩けなかったことをいつまでも悔やんでいたけど、
そんなことどうでもよくなった。今こうしてここにいるので満足する。
帰り道、遠足の帰りのように、車の中でみんな子供のように眠った。
順番に各自のホテルの近くで降ろしてもらい、
寝ている人を起こさないよう小声でお礼を言って降りた。
「おやすみなさい、また明日」という軽い感じで。
自分の車に乗り換えて、ゆっくり宿まで帰る。もう0時前で、宿は真っ暗。
星を見ながらそっと部屋に戻り、そのまま寝る。
遠くで夜中なのに何度もコケコッコーと鶏の鳴く声がしていた。
5月3日(火) 晴れのち曇り、夜は雨
朝からシャワーを浴びて寒い。
今日の朝ごはんはマカダミアナッツとバナナが入ったパンケーキ、
フルーツ、コーヒー、ジュース。パンケーキにメープルシロップを
たっぷりかけておいしく食べた。
マカダミアナッツのシャクシャクした歯ごたえがうれしい。
パッションフルーツを初めて食べた。
今日は最後の日。海に行こうということになった。
ティムさんと、昨日のマウナケアでのこと、ここでの生活のことを話をし、
おすすめのビーチをいくつか教えてもらった。明日は早朝のフライトで、
未明に出発する予定なので、先にチェックアウトの手続きをさせてもらう。
ここで作られているコーヒーも買った。
風味を損なわないために、豆のままでしか売らないらしい。
気が早いが、もしかしたらもう会わないかもしれないので、
ティムさんと犬と一緒に写真を撮ってお礼を言う。
しばらく部屋でのんびりしてから水着に着替えて出発。
ティムさんが下の町に車を置きっぱなしなので、
ついでに町まで乗せてって欲しいとのこと。車の中で日本の桜の話をした。
彼を銀行の前で降ろし、ずーっと北上する。
空港を通り過ぎると、まわりは溶岩だけになった。
白い石をもってきて、多くの観光客が黒い溶岩の上に自分の名前や
メッセージを描いていくらしく、私はずっとそれを読んでいた。
この辺りは海岸線に沿って、大きなリゾートホテルが点々とあって、
南の方とは全然感じが違った。道路はまっすぐで広い。
大きなトラックが多く、ぶっ飛ばすので、すれ違う度に吹き飛ばされそうになった。
私は昨日のツアーで聞いた神話に出てきた溶岩の台地に生える
オヒヤ・レホアの木を見たかったが、ここでは全然見つからなかった。
火山に行ったときは、いっぱいあった気がするのに、
その時はその話も知らなかったので、全然気にも留めていなかった。
やって来たのは全米一美しいビーチと言われているハプナビーチ。
全米一と聞くと、映画みたいでうさんくさい。
ハワイ島にはめずらしく白い砂浜のビーチで、海水はエメラルドグリーンだった。
見ているよりも意外と波が強く、大人もキャッキャ言って遊んでいる。
ぼーっとしてると、波にのみこまれ、きりもみされて、
おぼれて前後左右不覚のめちゃくちゃになる。
水着なんて剥がれてしまいそうに強い。
体はあらぬ方向に引き裂かれてしまいそうになってちょっと怖くなった。
何も遊び道具を持ってこなかったので、
夫は我が身ひとつでボディサーフィンを始めた。
自分が板になって波に乗るから見てくれと言う。
私には波の中で沈んでいるようにしか見えなかったが、
本人は乗ったとうれしそうに海面から顔を出す。
何も考えずに波にぶつかってはしゃいで遊んだ。子供みたいだった。
ひたすら楽しかった。
海であそんで心地よく疲れて気持ちよくおなかがへったので、移動する。
シーフードが食べたくなって、南に車を走らせ、
にぎやかな通りにあるレストランに髪ボサボサのまま入った。
海に迫り出たテラスで、遅いランチ。夫はエビのパスタとビール、
私はごっついサーモンステーキとビール。
泳いだ後のごはんはほんとにおいしかった。
テーブルからはウミガメがプカプカ浮いているのが見えた。
ひとまず宿に帰って、夜まで好きなように過ごす。
結局はふたりとも寝てしまい、夕飯どきになっても全然おなかがへらないので、
先に帰国の荷造りをやっておく。
最後の日に夜ごはんを食べないのも何だかさみしいので、
とりあえずふらふら町に出た。空は曇っているのか、星は全く見えなかった。
遅い時間だったので、開いているのは騒がしいレストランバーやクラブばかり。
1件だけハワイアン料理を食べさせてもらえるお店がぎりぎり開いていたので
そこでちょっと食べた。ここはごはんよりも、
カバというポリネシア人が昔宴会や儀式の場で飲んだといわれる植物の根で
作った液で知られているようで、
みんなココナッツの器に入った泥水みたいな飲み物を手に持っていた。
カバはたくさん飲むと神経を痺れさせ、リラックスさせる効果があり、
最後には寝てしまう平和な飲み物。もちろん飲んでみた。
まずすぎて、味わって飲むもんじゃないので、一気にいけといわれる。
つけあわせはパイナップル。夫は興味本位でちょっと飲んでみただけで、
残りは私が一気に流し込んだ。
舌がピリピリして、体が熱いような冷たいような、ふわふわして、
不思議な感じがし、あぶない感じ。
ごはんは好きな料理を3つ選ぶプレートを2人で分けた。
豆腐ステーキとポキ(マグロのヅケみたいなの)とポイというタロ芋を
ペーストにして発酵させたハワイアンの主食を選んだ。
別に何の期待もしてなかったけど、豆腐ステーキはとてもおいしくて、
うれしくなった。ハワイの豆腐は日本の木綿よりももっと固いが味が濃くて
私は気に入った。ポイは紫色のドロドロで、少し酸っぱくて苦手。
お店のおねえさんは、愛想がいいというわけではないが自然体で
なんだか頼りたくなるような人だった。豆腐ステーキの味付けを聞けばよかった。
宿に戻って、夫が外で煙草を吸っていると黒犬のモーリッツと
トラネコのタイガーが寄ってきてなかなか離れない。
私たちが明日の朝帰るのを知っていて、あいさつをしに来たような顔をしている。
夫はモーリッツを撫でてやりながら、何やらずっと話しかけている。
「こんなところにいるおまえは幸せ犬だ」と言っていたらしい。
ずっと離れなかったのに、ふと自分から寝床に帰っていった。
夫とこの旅を振り返って話しているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
5月4日(水) ハワイ島は雨、オアフ島は晴れ
4時半起き。夫は寝言でハワイ島のどこやらの地名を大きな声で言った。
私は何か怖い夢を見ていたので、びっくりして目が覚めた。
まだ暗いうちにみんなを起こさないよう、そっと夜逃げのように出発。
もちろん誰も見送りに来ない。
あまりゲストに干渉せず、控えめなおもてなしがちょうどいいこのB&Bは、
道のりはタフながら、とてもリラックスできた。
雨が降っている。空港までは早朝でまだ日も昇ってないのに車が多い。
うしろをぶつけたことがばれずに、走り回った車を返すことができてひと安心。
こんな早朝なのに意外と空港も人が多かった。
せっかくバッグを増やして荷物を分散したのに、またもやなぜか重量オーバーで、
時間がないので仕方なく追加の25$を払った。
1時間乗って、オアフ島で乗り継ぐ。ホノルル空港を離陸してすぐ、
窓からイルカの大群が泳いでいるのが見えたそうな。
私はもう眠ってしまっていた。
東京に帰ってきて、スーツ姿の大群を見て、
はじめはものすごく不自然で変な感じがした。
でもすぐにここでのいつもの忙しい生活ペースに戻っていくんだと思う。
オアフ島とハワイ島は同じハワイでも全く印象の違う島だけど、
それぞれどちらもハワイらしくて色んな発見があった。
小学生の時、私が書いた「青空」という詩。空が青いのは、
海の青さが空に写るからなのかなあという詩。
今はそうではなく、空の色が海に写ると分かる。ハワイはまさにそうだった。
ハワイのおみやげをちょっとだけお裾分け!!
ご希望の方は佐藤家にメイルを下さい。
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