さんきち なぞ図書館

ダライラマ自伝



ビレッジヴァンガードという本屋さんがある。

「遊べる本屋 ビレッジヴァンガード」
というのが、このお店のキャッチフレーズらしく、
ちょっと見、外から覗くと、相当あやしい。

店内は所狭しと、売り物のむいぐるみやら
ランプシェードやなんやかやが、上からぶら下がっているし、

そこいらじゅうに、CDやら、マグカップやら、ライターやら
なにやらガラクタのようなものまでが、
積みあがってごちゃ混ぜだ。

でも、そんなゴミゴミした店内を、
カバンで物を落とさないように気をつけながらも
歩き回る意味があるのだ。

だって、ここでは、

いつもならちょっと手に取らないような本を、
手にして、買ってみて、読んでみたら大当たり!

ということがよくあるから。


なぜ、いつもなら手にしないような本をここでは、
手にとってしまうのか。

実は、この店の本のまわりには、
たくさんの手書きのコメントが溢れている。

その手書きの紙は、その店舗の店員さんが書いたもの。

ざっくばらんな言葉で、
その本の感想や、おすすめポイントが、
バーンと書いてある。

「これは買い!○○が好きな人は必読!」
とか、
「とにかく笑える。」
とか。

俺はこう思った!
ってだけの感想もあるし、
書いた人と趣味が合わない事だってそりゃああるだろうけど、
まあ、とにかく、ある誰かさんには、
この本はこう読まれたんだな・・・ということが分かる。

そうすると、それぞれの本がとても近くに感じられてくるのだ。
「ん?」と思って手に取ろうという気になる。

ぴっかぴかの大型書店に、
ざあーっと陳列されている山ほどの本たちの中に行くと、
なんだかもう、どうしていいんだか、
よくわからないような気持ちになることがある。

みんな同じような顔をしてきれいに澄まして並んでいて、
圧倒はされるんだけど、選びようがない。

うーん。何百万部売れてるって言われてもなあ・・・。

どれだけ売れているかよりも、
話題の新刊本じゃなくても、
ちゃんと残ってゆくだけの力のある名作や、
普通の本屋では埋もれてしまうかもしれないけど、
しっかり価値のある、面白い本が読みたい。

で、そのビレッジヴァンガードという本屋は、
わりかし古い本もコメントつきで並んでいるのです。
だから、いろんな面白い本と出会える。

「ぐちゃぐちゃな店内で宝探しをしている。」
そんな感覚のお店なのです。

で、今日の本も、
その本屋の一角で出会った、
宝のひとつ。

こりゃあ、面白いよ。


「ダライ・ラマ自伝」 ダライ・ラマ (山際素男 訳)
文春文庫 629円




毎晩お風呂で読んでいたから、
本がぼろぼろだ。

本の途中からは、
「あと、もうちょい。あ、このページ終わったらあがろう。」
などとのばしのばしで読み進んでしまい、
一時間近くも湯船に浸かっていて、
ヘロヘロになったことがよくあった。

だって、面白いんだもん。


ええと、まずね、私がなんでこの本に興味をもったか。

本屋で平積みになっていたので、
まず、表紙に惹かれた。

よい顔の人だなと思ったから。
なんだかすごそうだな、と。

それに加えて、私のこの本を読むまでの、
「ダライ・ラマ」という人に関する知識3つ。

1、「ダライ・ラマ」というのは、どっかの国の偉いお坊さんで、
  その国では、「生まれ変わり」が信じられていて、
  ダライ・ラマが亡くなったら、
  お告げとかで、生まれ変わりがいると思われる方角に住んでいる
  亡くなった時期に生まれた小さな子供を発見し、
  「おまえ、ダライラマ!」と名指しする。
  彼は、遠くへ連れて行かれ、
  そこから「ダライ・ラマ」として生きてゆく。
  
  (たしか、いつかテレビでみた。)

→いきなり、「お前、ダライ・ラマ!」と言われて
 ダライ・ラマとして生きていく人の「自伝」って!
 どんな人生を歩んで、どんな気持ちなんだろ?

2、ダライ・ラマは、ノーベル平和賞を受賞している。

→ノーベル平和賞といえば、マザーテレサ。
 マザーテレサの本は読んだことあるし、
 テレビでもよく特集されているから、
 なにをやったどういう人だか知っているけど、
 いったい、この、突然「ダライ・ラマ」と言われた人は、
 どんな人で、どんなことをして、ノーベル平和賞なのだろう。

3、詩人の谷川俊太郎が、
  ダライ・ラマの日本での講演を聞きに行って、
  すごく感銘を受けていた。
  (結構最近の情報。一年くらい前かな?)

  講演の内容も面白かったが、
  それよりなにより、
  自分の講演を待っているときの、
  ダライ・ラマのたたずまいに感銘を受けていた。
  ものすごく自由奔放で、気取りのない感じで、
  あれを見れただけで行った価値があったなあと思ったと
  言っていた。

→それを聞いて「へえ」と思った。一体どんな人なんだろう。



・・・ということで、本を読んでみました。


この本には、幼少の頃、ダライ・ラマと言われるより前のことから、
今までの長い人生が、しっかり書いてありました。

彼は、すごい歴史の渦の中を生きてきた人だった。
知らなかった。

そして、この本で最も感心したのは、
終始一貫している、彼の「普通の人」加減。

このような人生を歩みながら、
心を研ぎ澄まして、普通の考え方で常に生きている。

いろんなことに興味を持って、
自分のまわりに起こることをじっとみて、
しっかり自分で考えて答えを出して、
そしてなおかつほがらかで明るい。

この本を読んで、これっぽちも
「難しい」と感じたところがなかった。

すべてこの人の、体験して、感じて、
考えてきたことだけが自分の言葉で書いてある。
ううむ。

本当に賢いとはこういうことだと、うなりました。

そして、もうひとつ強く感じたこと。

これから先、国を治める人は、
ただ、物事を推進する力があるとかだけでは
だめなんだなということ。

もう、これからは、
この地球に住む人々の為に自分は、
または自分の国はどうするのが一番いいだろうか
という、大きな視点と、
人を信頼するあたたかで深い思想がなければ、
国を治める資格はないんじゃないかなあと思いました。


(ちなみに、ビレッジヴァンガードのサイトはこちら→http://www.vvvnet.com/

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