さんきち なぞ図書館

はてしない物語



12月25日の朝、

まだ薄暗い部屋の中で目を覚ますと、

うっすら包装紙の匂いがするのです。

あの、なんともいえない、新しい印刷の匂い。


仰向けのまま、顔を横に向けると、

隣に並んで寝ている弟妹の枕元に、

ぼんやり箱らしきものが並んでいます。


胸をドキドキさせながら

自分の頭の上に手をのばすと、

指の先になにかが触れました。


みぞおちが痛いほどうれしいのを抑えながら

ゆっくりとひっくりかえり、

弟や妹を起こさないように、

静かに静かに包装紙を開けにかかるのです。



そして、小学生のある日、その包装紙からでてきたのは、

この「はてしない物語」でした。



「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ著 岩波書店





その分厚い本は、

赤い絹のような布が張ってありました。


障子を通して入る薄明かりの中で目を凝らすと、

本の表紙には二匹の蛇が、お互いの尾を噛みあった

丸い円の紋様が描いてあります。


ページをぱらぱらとめくってみると、

なにやら、ゴシック調の模様がページの上下に描かれ、

怪しげな線画の挿絵がところどころに入っています。


本文はというと、なぜか、緑色の部分と、

あずき色の部分に分かれているのです。



その文字の色分けに一体どんな意味があるのか。

表紙の二匹の蛇の紋様はなんなのか。

あやしげな挿絵の奇妙な生き物たちは誰なのか。


いま手にしているこの分厚い本の中に、

私のまだ知らない物語が詰まっている。

知らない世界が広がっている。


そう思うと、いてもたってもいられなくなり、

小学生の私は、再び布団にもぐりこんで、

息をころして読み始めました。






この本の主人公は、ドイツに住む、

バスチアンという名の少年です。

お母さんをつい最近亡くし、お父さんと二人で暮らしています。


彼はいじめられっこで、その日の朝も、

学校に行く途中いじめっこに追いかけられ、

とっさに通りがかりのお店に逃げ込みます。


いじめっこたちをやり過ごし、

ほっと安心してあたりをみわたすと、

そこはほこりの匂いのする、古い本屋でした。


その店で少年は、不思議な本と出会います。


赤い絹張りのその本は、表紙に、

二匹の蛇が、お互いの尾を噛みあった

丸い円の紋章がついていました。


本の題名は「はてしない物語」。


彼はその本に強く惹かれ、

目が離せなくなってしまいます。


そして、本屋のおじさんが電話にでているすきに、

「かならず返します」そうメモを残して、

本を胸に抱えると表へ飛び出して行きました。


彼はいったんは学校へ行きますが、

授業はとっくにはじまっています。


しかたなく、以前一度だけ入ったことのある、

学校のふるい倉庫に忍び込みます。


そこで、ガラクタに囲まれボロボロの毛布にくるまりながら、

今朝出会ったその不思議な本を読み始めるのです。




・・・しかし、その本は、ただの本ではありませんでした。


その日、バスチアンが入り込んだのは、

自分自身の「はてしのない物語」。


彼は、「彼自身の物語」の中へ、

知らずに入り込むことになるのです。



なぞ図書館司書  さんきち



追伸:この「はてしない物語」は、

「ネバーエンディングストーリー」という映画になっているので、

そちらでご存知の方も多いのではないでしょうか。

実は、映画の話は、この本のちょうど半分くらい。

そこから先、物語はさらに深く進んでゆきます。


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