さんきち なぞ図書館

土を喰う日々



みなさんこんにちは。

最近の、わたしの趣味嗜好が、全面にでてしまう 「なぞ図書館」。

今回は、「土を喰う日々」 という本をご紹介します。



「土を喰う日々」 水上勉著 新潮文庫 420円 




前回のなぞ図書館にも書きましたが、

いま私は月に一回、富士山のふもとに、畑仕事・・・

というか、畑遊びをしに行っています。



こないだの土日も行ってきてね、

座り込んで雑草をひとつひとつ抜きました。



雑草を抜くのって本当に面白い。大好き。

もうね、夢中になってしまう。



根っこを残さないように、

まるごとすっぽり抜くように気をつけて、

こいつはやっかいだな・・・・あ、これはうまくいった・・・

これもこれも・・・ってやっていると、

だんだん無口になってきて、しまいには、

そこに、草と土と自分しかいないみたいになるのです。


じりじりする太陽を背中で感じて、

汗がこめかみを伝っていって、

まわりは川の流れる大きな音だけで、

たまにミミズちゃんと遭遇してヒイイってなったりして。



・・・ああ、なんてしあわせな時間。

畑仕事って、体は疲れるけれど、心がなんだか元気になります。

冷たい水でじゃあじゃあ丸洗いされたみたいにすっきりする。

これだからやめられないのだ。



さて、で、この本、どんな本かというと、



こんな副題がついています。



「土を喰う日々 〜わが精進十二ヶ月〜」。



精進って何?って思うでしょ。

実は、著者の水上さんは作家なんだけれども、

9歳の頃から禅宗のお寺で暮らし、

16歳からは台所を一人で任されて、

日々精進料理をつくっていた人なのだそうです。



お寺ではもちろん贅沢はいっさいできないし、

(当時務めていたお寺は、特に貧乏寺だったらしい)

ほとんど、寺の裏にある小さな畑で育てた野菜だけを使って、

大切に大切に一品づつこしらえないといけない。



「 承弁や、(←著者の僧名) またお客さんが来やはった。

こんな寒い日は、畑に相談してもみんな寝てはるやもしれんが、

二、三種類考えてみてくれ 」



そう和尚さんに言われると、畑に行き、

小芋や馬鈴薯なんかを、

ひとつづつ撫でるようにとりだして、丁寧にケシケシと皮をこすりとるようにむき、

汁の実にしたり、煮ころがしにしたり、様々な工夫をしてお出しする。



畑の食材は限られているから、それらをあえてみたり、くずしてみたり、

固めてみたり、すりつぶしてみたり、油で揚げてみたり、

焼いてみたり、酢を入れたり、醤油を入れたり、塩を入れたり・・・

と化学の実験でもするように、長年配合を工夫して、

失敗したり、成功したりしながら、

それぞれの味の相性がわかってくる。



そんな毎日を続けていた著者が、その経験から習得した、

精進料理の数々を紹介してくれる。

・・・そんな本なのです。



そりゃ、おいしいだろう。





「精進料理は、そのときある畑のものと相談して献立をきめる。

だから、精進料理とは「土を喰う」ものだと思ってきた。

旬を喰うことは、土を喰うということだ。」



だから、タイトルを「土を喰う日々」としたんだそうです。







この本は数々の精進料理のレシピが載っています。

でも全部言葉。

文字だけのレシピ。

写真もところどころ載ってるけど白黒だし。



でもね、オレンジページとか、レタスクラブみたいに、

ちゃんと手順のところもキレイな連続写真付きだったりすると、

すごくわかりやすくて、ありがたいのだけど、

この、文字だけのレシピってのはねえ、

そのわかりやすさとはまた違った、特別な魅力があります。



文字だけのレシピは、目で見えない分、

自分の頭の中で想像する。



それは、きっとカラー写真よりもっと、おいしそうに。



食材の質感や、香りなんかが、

まるで自分が今、その料理をつくっている最中であるかのように想像できる。

頭の中にほかほかの湯気をたてたいかにもおいしそうな料理が

浮かんできてしまう。

つくっている人のその場の気持ちまで一緒に体験するようで、

シュミレーションもばっちり。



ほんと、食い意地の張っている人は、うっとりしちゃうよ。

読んでるだけで、大切な野菜を工夫してうまいこと料理して、

できたてを食べた気持ちになる。



例をあげると・・・・



2月の章   小かぶらの山椒味噌かけ  ふきのとうの網焼き

3月の章   湯葉の甘炊き  高野豆腐の煮物

5月の章   若筍汁  筍とわかめの炊き合わせ

7月の章   実山椒の辛煮 

8月の章   ごま豆腐

9月の章   しめじ飯  松茸とこんぶのコトコト煮

11月の章  里芋の田楽




またしても、お腹がすいてきちゃった。

ぐう。




こんな感じの献立が、一年の季節の移り変わりと、

著者のお寺での修行時代のことと合わせて語られます。


畑で育てたものを喜んで収穫し、大切に調理し、おいしく食べる。

大地にしっかり根をおろした生活のような気がします。


なんだか静かで豊かな気持ちになる一冊。



なぞ図書館司書 サンチキ


ちなみに、この本をわたしに教えてくれたのは、SAKRA.JPメンバー、
フチドルのムトーくんです。ありがとう、ムトーくん。ほんとよい本だね。



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