憤慨である。
久しぶりにテレビを見て、暑くて寝苦しくてつけたテレビを見て、世界陸上を見て。
今回から「フライング」のルールが改正された・・・いや、改悪されたようだ。
誰がしたに関わらず、2回目にフライングをした選手は即刻失格。
陸上短距離のフライングにはもうずいぶん前から0.1秒のルールがあったと思う。
人間の反応速度の限界として音が鳴ってからそれ以上の早さで筋肉を動かすことはできないから、それより早く反応した人は、カマをかけたとしてフライングになるというルール。
男子100m2次予選。第2組。
そのルールに乗っ取り、2人の選手が失格とされた。一人はアメリカの経験のあるベテランランナー。34歳の彼にとって、今回の大会には期するものがあったのだろうことは容易に想像がつくし、何度リプレイを見ても、0.05秒というのはテレビの映像では2枚の画にも映らないスピードである・・・分かるわけがない。
彼が抗議をすることに、誰も文句をいう人はいなかった。それが多少行き過ぎていたとしても、彼の経験や保持記録、そして世界最強を見たいと願う全ての観客にとって、彼の2次予選での失格は不本意なものであった。
再開のメドの立たない抗議に、競技順を最終組へ入れ替えが行われた・・・まではよかった。その後が憤慨のシーンだ。
サブトラックへ戻った彼は、コーチに止められて号泣していた。34歳の彼は、そのプライドをかなぐり捨てて世界の前で泣いていた。
オーロラビジョンに映し出されたその姿に会場のファンに火がついた。
最終組となった2人少ないランナーたちがセットに入る度に、激しいブーイングが行われ、彼等の集中力を削いだ。
15分は続いたであろうブーイングに、ただ選手たちは怒りのアピールで抗議するしかなかった。
なぜ、大会主催者側からの説明や抗議がないのであろう。
あなた方は決めたルールに乗っ取って、信じるしかない機械の結果を元に彼を失格にしたのではないか。自信を持って発表すればいいではないか。
相撲でも「物言い」がついた場合は理事長が説明をして裁定をくだす。
そういった声がどこからもあがらないのはどういうわけだ!
そしてブーイングを続けた観客よ。君たちは世界最強を決めるという事をはき違えている。
かつて極真空手の創始者、マス大山は在りし日のアンディ・フグと若きフランシスコ・フィリオの対決の際、試合終了後に放ったフィリオの蹴りで倒れたフグに、一本負けの裁定を下した。戦いの場において、試合が終わったからと気を抜くものが悪いのだという理由である。
格闘技だから許される、大山総裁だから許されることかもしれない。しかしその精神は納得できるものである。
覚悟をもって戦うからこそ、勝者に価値があるのだ。がんばってきたから偉いのではなく、次がないから優先されるわけでもない。その場にいる以上あとがない覚悟を決めているからこそ、見るものに感動を与えられるのではないか。
「グラップラー刃牙」 板垣恵介 著
あの時の観客、および大会主催者にこの漫画を読んで欲しい。
ただただ純粋に「世界最強」の為に戦う男たちの物語だ。あるものは親のために、あるものは妻のために、そして自らの存在理由のために純粋に戦う。
男たちを囲む世界も、ただ最強を見るために純粋だ。
ただ世界で一番強い男を決めるためだけに。
今後の世界陸上が、この主題を忘れないことを願う。
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