さんきち なぞ図書館
土曜日だっけかな。
学校から帰ると、祖父がお茶の間で、
かならず見ていた番組がありました。
まっしろに照り返すじゃり道を走って帰ってきて、
暗い家の中に急に飛び込むものだから、
最初は、目の前がみどり色でなんにもみえない。
でも、見えなくっても、
あの番組だということはすぐわかるのです。
あの陰気なしゃべり方で。
「それは・・・わたしが結婚して・・・間もないころの・・・ことでした・・・」
きゃ〜〜〜〜。
ごめんなさい。
ちょっとリアルに思い出してしまった。
ほんとに苦手なのです。あの手の話。
テレビの方をみないようにして、
それでも音がきこえちゃうから、
でまかせの歌を早まわしで口ずさみながら、
ご飯をかっこみ、すっとんで逃げてました。
そう。その番組とは・・・
「あなたの知らない世界」。
どうして、「こわい話」は夏なんだろう。
おばけやしきといい、肝だめしといい、
「あなたの知らない世界」といい。
でも、夏の合宿の肝だめし、
暑い中、手に汗握って、
怖い話をきくの、面白かったなあ。
みんな真剣な顔して、かたまって。
ふふふ。
やっぱりそれは、
夏ならではの独特な雰囲気を持つ、
すてきな文化だなあ。
ということで、今日ご紹介の本は、こちら。
しずかなしずかな幽霊のおはなしを10こ。
「幽霊を見た10の話」
フィリパ・ピアス著 岩波書店 2200円
もちろん、このこわがりの私が、
ちゃんと最後まで読めて、
そしてさらに、おすすめしようと思うのだから、
ふつうのこわい話とはちょっと違います。
なにが違うのかというと・・・
怖さが残らない。
怖い話のなにがやっかいって、
怖さが残るところです。
瞬間的なスリルならよいけれど、
そうはいかない。
こういうものに限って、
なかなか記憶から消えてくれないものです。
思い出したらまずい!というパワーで、
はっきり思い出してしまうんだもん。
夜中に思い出して眠れなくなったり、
お風呂で鏡がみれなくなったり、
その後一ヶ月くらいは、
たいへんな目にあいます。
もちろんこの本も、読んでいるときは、
動けなくなるほど怖いのです。
恐怖をあおるような派手な仕組みもなく、
おどろおどろしいものはでてこず、
「こういうことがありましたよ。」
とただ淡々と続く文章なのだけれど、
だからこそ、余計、怖い。
(満員電車の中で読んでいることを、心から感謝しました。)
でも、おもしろいことに、その怖さが、
読み終えたあと、静かにひいてゆくのです。
怖さが引いて変わりに残るもの、
それは、せつなさのようなものでした。
この本の英語の原題は、
「The Shadow-cage and Other Tales of the Super-natural」。
といい、(ながい!)
日本語で題にするとしたら、
『 自然を超えたものの物語「影の檻」他、10篇 』
といったような感じになるかしら。
怖い話として書かれていない。
それが、この本を読み終えたときに、
怖さが残らないことに、
つながっているのかもしれません。
10篇とも幽霊が登場するのだけれど、
それは、人を恨んでとか、
呪い殺してやるとかだけででてくるわけではなく、
(そういうのもいるんだけど、でも、それにしたって)
そうなってしまったことが、とてもせつない。
この本の中に「水門にて」という一篇があって、
実は、それ、
高校か、中学かの国語の教科書に載っていて、
よんだことがありました。
その作品がとても、印象に残っていたのは、ハ
授業中、勝手にその作品を読んでいたら、
涙がぽとぽと落ちてしまって、
すごく困ったからです。
コワカナシイ。
今回も、その一篇に限らず、
涙がたくさんでました。
コワカナシイだらけ。
涙がでるのははずかしいけれど、
もし、この本を読まれるときには、
満員電車の中をおすすめします。
コワカナシイといえども、
そのコワはやっぱり、強烈ですから。
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