其の五『UNTITLED』


娯楽どころではなかった日々もなんとか収拾がつき、お待たせしました一か月ぶり、れいじです。

あんまりご無沙汰にしていたものだから、最近行きつけにしていた、自宅にほど近いビアレストランからもメールが来る始末。・・・そうそうこのビアレストラン、オカマ歴25年というママがいます。とても話の面白いこのママは、僕の知る限りもっとも人生の楽しみ方をしっているオカマです。自分の性癖になんの後ろめたさも感じず、開けっぴろげに、豪快に酒を飲む姿に真のオカマ道を感じます。

僕は生まれてこのかた25年、男としてなんの疑問も持つこともなくすくすくと成長してきました。そして体は少しだけ成長しすぎました。男らしく生きることを目標とし、殿方用のトイレを使い、キングサイズの服を着ます。

そんな僕ですが、少女漫画はたまに読みます。限られてはいますが。

今回は一番好きな少女漫画を紹介したいと思います。


「UNTITLED」 岡崎京子 著

知っている方は、なんで「リバース・エッジ」じゃないのかと思うかもしれません。

この本は僕が岡崎京子作品に初めて出会った作品です。だから思い入れと衝撃がほか作品とは違います。あえてこのタイトルを選んだのですが、もし岡崎氏がこのページを読むようなことがあれば心象を害するのかもしれません。というのも、この本は作者が事故で休筆している間に出版され、本人未監修のためタイトルなし。雑誌に掲載された通りに刊行されています。

だからでしょうか、未完成な感じのする話が多いのにも関わらず、吸い込まれそうになる圧倒的な世界観。そこが気に入っていたりします。

少女漫画が少年漫画と一線を画すのは、その絵の構成ではなく心象(特に恋愛の)の機微ある描写だと思っています。その描写がもっとも優れている、というかほとんど文学作品を読んでいるかのような錯覚に陥ります。サンキチさんに紹介してほしいくらい。

巻頭に収録されている「万事快調」の一説が、出勤前の心の奥底で響く。

「家から出て 3回目の角を曲がると ゆるい坂道になる
   くだり坂をくだる時 ヒールをはいたふくらはぎに力が入る
     がんばらなくちゃ がんばらなくちゃと 力が入る」

両親を早くに亡くし、家のことはほとんどこなしている姉のゆきちゃんが語るこのくだりは、同じく父を亡くした経験を持つ僕にも、3人兄弟の一番上という状況も含め、全くもって共感して、ただただ感動したんです。

亡くしたものへの喪失感の中、それでも日常は続き、それを埋めるためにまた新たなものを失う。そんな皮肉な繰り返しが、生活の活力へと昇華され、またこれからもがんばらなくちゃと力が入る。

そんなちょっとセンチでブルーなお話が、梅雨の季節にはよく似合うのかも。

電気も足りないようですし、クーラーのドライも切って、夏に熱い番茶を啜るがごとく、ジメっとした季節を満喫してみるのはどうでしょう。