<地下1000mで、星の観測をしている人>
地下1000mで、星の観測をしている人がいます。
こう書くと、なんだかおとぎ話のようだけれども、
いるんです。ほんとに。
岐阜の山奥、地下1000mに、巨大な筒状の施設をつくり、
そこに、ろ過したうつくしい水を張って、
星から飛んでくるニュートリノという粒子を観測しているのです。
たまに、点検のため、ボートで浮んだりしてね。
この施設、「スーパーカミオカンデ」いう名前で、
去年ノーベル物理学賞を受賞した小柴教授(お年寄りの方ね)が、
つくったものなのです。
ここで観測しているニュートリノの研究によって、
小柴教授はノーベル物理学賞を受賞したのだけれども、
実はその受賞の2ヶ月くらい前に、
わたしと、あとふたりでね、レンタカーを借りて
このスーパーカミオカンデを、見にいってきたところだったんだ。
だいたい、文系のわたしが、なぜそんな施設を知ったか・・・とか、
なんでその施設を見に、岐阜まですっとんでいったか・・・などの顛末は、
このblogのトップページの左っかわの、
.PUSHというとこに、
とても詳しく(山口スペシャル写真付き!)
で載っていますので、ぜひそちらをご覧下さい。
でね、話が長くなりそうだからはしょっていきますが、
このカミオカンデツアーでは、
小柴教授と一緒に、この研究を最初っからずっとやってきた、
いわば一番弟子みたいな戸塚教授っていう人が、
ちょうどあと少しでこの研究を離れて、
筑波に移るって時期と重なってて、
せっかくだからってことで、思い出話も込みで、
スーパーカミオカンデについてや、
ニュートリノ天文学についての講演をしてくれたのです。
なんでもそうだけれども、
その道のプロ・・・って言い方は違うか、
うーんと、「そのことが体の一部のようになってしまっている人」の話は、
聞いてる方がちゃんと手でつかめるような、
噛み砕かれた面白い話になるものだけれども、
この講演も、まさにそういうものでした。
もちろん、どんなに噛み砕いてもらっても、
物理学の基礎がまったくない私には、
ちんぷんかんぷんなところだらけだったけれども。
でも、頑張って聞いているとわかるところも出てくるから、
もう、頭の芯がしびれるくらい集中して聞いていました。
それでね、その内容はすばらしく面白くてワクワクして、
びっくりすることばかりだったけど、
その講演の帰り道、車の中で噛み締めていた幸福感は、
物理学の面白さと別に、もうひとつあることに気づいたんだ。
それは、ただ一人の人間の中に、(この場合、戸塚教授)
こうも大きな(変わった)世界がひろがっているかという驚き。
わあ。この人、すっごい面白い世界に住んでんなあって。
ライフワークっていう言葉があるけれども、
毎日ね、地球を通過してゆく目に見えない小さな粒子のことや、
そこからわかる大きな大きな宇宙のことを、
ふつーうに日常で考えつづけている人が住んでいる世界は、
わたしの住んでいる世界と、
まったく違う様相をみせているんだろうなあと思うのです。
さて、そうしてね、今日紹介しようと思ってる本は、(やっと辿りついたぞ)
わたしが読むたびに、
「この人、面白い世界に住んでんなあ!」と思ってしまう人の、
エッセイなのでございます。
そしてこの人もやっぱり、物理学者なのでございます。
「寺田寅彦随筆集 第五巻」 小宮豊隆編 岩波文庫 600円
この随筆集は全部で五巻まであって、
最初は、一巻をおすすめしようかなあと思っていたのだけれど、
ちょっと読み返してみたら、
五巻がけっこうオモロイのばっかだったので、
五巻をおすすめします。
寺田寅彦というのは、昭和のはじめのころの物理学者で、
外国の研究者に先をこされ、
僅差でノーベル物理学賞をのがしてしまったといったような人です。
そういう物理学者の人の、日々観ていること、感じていることは、
本人はあんまり気付いていないようだけれども、
やっぱりちょっと変わっています。
この本はエッセイなので、
物理学のことをあれこれかいているわけではないけれど、
物理学者が普段の生活の中で、
どんなことに注目して生きているかがわかります。
寺田寅彦が生きている世界は、とても面白そうです。
みんながあたりまえと思うようなことにも、
「なんだろう、これ?」って感づいているのがよくわかる。
猫のゴロゴロをはじめて体験したときも、
子供たちに笑われながらも、じっと観察して、
「猫がのどを鳴らすというが、触ってみると、
のどというよりも肺が振動しているのではないか。
この振動は横隔膜の上までくるとだいぶ弱まる。
これが心理的な喜びと、どういうメカニズムでつながっているのか、
興味のひかれるところだ・・・」 とかなんとか。
ちょっと笑ってしまうんだけど、彼は真剣だからね。
この猫のゴロゴロに対するのと同じ姿勢で、
映画鑑賞から、旅で見た噴火やら、俳句のことやら、
彼が感じたさまざまなことを書いています。
猫はあいにく何の研究にも結びつかなかったようだけれども、
この本を読んでいくと、如何なるわけのわからない難しい物理学も、
おおもとをたどれば、人間が、この世の中のことを不思議に思って、
どうなってるんだろう、これ?と考える、
とても自然な作用から発生するものだということがよくわかります。
あれ?
なんか理科の時間みたくなってきちゃったぞ。
ふう。ながくなりました。
ここまでよんでくれてありがとう。
それでは、また。ごきげんよう。
なぞ図書館司書 さんきち
(あ、ちなみに猫のゴロゴロは、一巻に入っていました。お間違えのないよう。)