こんにちは。なぞ図書館です。
さっきね、上空をぼやけた飛行機雲がカーブしてたよ。
ふうーーーーーーーーーーーーーーーーー。
たいへんよい天気。
春だ春だ。



そうそう、こないだblogで紹介されていた桜の場所ね、
去年わたしも行ったよ。
(そうです。会社を休みました。)

あそこはねえ、なんともふしぎなところ。
キツネに化かされそうなね。
視界が霞むんだよ。なんでかなあ。
急にあったかいから、湿度があがってそうなるのかな?
よくわからんが、遠くがちょっと見えにくいの。
もしかして、あれを「煙る桜」というのかもしれんね。
人がだあれもいないのに、
桜だけが、そこいらあたり全部ピンクにするくらいのすごいパワーで咲いててね、
なんだかこの世じゃないみたいだった。
目を凝らしたら、死んでしまった会いたい人が、
ほんとうにむこうの橋の上に立ってそうな気がしたよ。

そうそうそう、今日はね、「天上大風」(テンジョウタイフウ)
というおじさん雑誌(?)が創刊されたんだけど、
この「天上大風」ってタイトルは、
良寛さん(昔のお坊さん)が子供の凧にと頼まれて書いた「書」からもらったんだって。
なんだか、気分のいい言葉だなあと思って。
今日みたいな日にぴったりだ。
いま机に向かっているこの瞬間、
上空には、大きな風が吹いていて、白い凧がふわあああと舞い上がっていくんだよ
ね。
アラスカの海ではクジラがゆっくりひっくりかえっているだろうし、
熊は大木の根本で、冬眠からそろそろ目覚めているかもしれない。

さて、今回のなぞ図書館は、「天上大風」じゃありません。
今回は、照明の本を紹介しようと思って。
この本にでてくる照明はね、どう光を照らすか、だけの照明ではなくて、
なんと、「闇」を重視した照明なんだよ。


「陰翳礼讃」(いんえいらいさん) 谷崎潤一郎 中公文庫 476円(税別)


このタイトル、「陰翳礼讃」(インエイライサン)という言葉は、
ちょっとわかりにくいんだけども、
「陰影を、礼賛します」(インエイヲ、ライサンシマス)ってことなんだ。
わからんね。
うーんと、簡単に言うと、「暗がりバンザイ!」かな?
ちょっとちがうなあ。
うまく言えんから、本の中の一文を引用。↓

『美は物体にあるのではなく、
物体と物体とのつくりだす陰影のあや、明暗のあやにあると考える』

美しさって、物体そのものではなくって、
光と影のあやによりあらわれてくると思うんだって。
なんというかね、薄闇の中でみるからこそ見出せるうつくしさとか、
光々とひかりに照らされていないことでかもし出されるある雰囲気だとか。
そういうのを、薄暗い日本家屋で暮らしてきた日本人は、
自然に好ましいと感じて生きてきたんじゃよ・・・と思うんだって。

あ、作者は、谷崎潤一郎という作家で、
これを書いたのは、おじいちゃんになったころなの。
この人がおじいちゃんになったのはね、
ちょうど照明が電気に変わったり、純粋な日本家屋がなくなってきたりと、
日本に西洋文化が入りこみはじめた時期だったみたい。
それで、おじいちゃんは、変わりゆく世の中を眺めて、
「いまさらこんなこと言ってもしょうがないけどさあ、
こういうのって、たしかに美しいとおもうんだよねえ・・・」と、
ぶつぶつつぶやいているんだ。

でも、この本がたんなる年寄りの「昔はよかったばなし」じゃないのは、
この「美しさ」が、すごく力を持っているから。
あ、これは、どうやら知っているぞ。
と思うような、なんだかすごくどっしりした美意識なんだ。
そう感じるのはもしかして、それが、いつもは意識していないけれども確実にある、
日本人の心に根をおろした感覚だからなのかもしれない。

この本を読んでいくうちに、
この世の中にもうひとつ、「陰影」という美しさの世界があることを知ってゆくの。
それは、とてもおもしろい感覚で。

あんまり好きじゃない羊羹もね、

『玉(ギョク)のように半透明に曇った肌が、
奥の方まで日の光りを吸いとって夢見る如きほの明るさをはらんでいる感じ、
あの色合いの深さ・・・人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむ時、
あたかも室内の暗黒が1個の甘いかたまりになって舌の先で融けるのを感じ・・・』

とかって言われるとねえ、なんだかさ、
いままで食べてきた羊羹とはちがう価値を感じてくるんだよね。

そういう風に感じてくるのは、実は羊羹に限ったことではないんだ。
この本で触れられている様々なものやことに、
さらに言うと、
触れられていないものやことにも、
おんなじように、違った一面を感じるようになるんだ。

要するに、「陰影」というものの見方が、頭の中にひとつ加わったといった感じかな
あ。
だからこの本は、たま〜に思い出すんではなくて、
結構頻繁にわたしの日常に登場するの。
夕方散歩してたら急に暗くなってしまったときとか、
花屋で花を選んでいる時とかにね。

そうそう、去年ね、この本を、はじめて我が家以外でみかけたんだ。
どこでかというと、新潟。
新潟のね「光の館」という旅館(?)の、
部屋の机の上に、これがぽんと置いてあったの。

この「光の館」っていうのは、
ジェームスタレルっていう「光のアーティスト」と呼ばれているおじさんが、
日本の古い民家を改造してつくったアート作品なんだ。
山の途中にぽつんと建っていて、宿泊もできるっていうから、行ってみたの。
そしたら、そこにまさしくこの「中公文庫 476円」が置いてあった。

「あれ?」って思って、案内のお姉さんにきいてみたら、
なんと、「ジェームスタレルは、この本にインスパイアされてこの作品をつくったんですよ。」
とのこと。

それをきいて「そうか。なるほどな」と思ったよ。
光のことを一生懸命かんがえている人にとっては特に、
あの「陰影礼賛」っていうものの見方は、
けっこうはっとする考え方なんじゃないかな。
タレルさん、羊羹は食べてみたかしら。

そうだ。この光の館、すっごく気持ちが良いからおすすめです。
感想をひとことでいうと、「天狗になれる館」。
あ、天狗って「自慢げ」って意味じゃないよ。
木のてっぺんから下界を見下ろして、
びゅうびゅう風に吹かれて、
「わはははは」って笑ってしまうような天狗ね。

それでは、また。
わはははは。


なぞ図書館司書 さんきち